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「おっかしいなぁ。機嫌いい、って聞いてたんに」
「何か作法が間違っていたんでしょうか?」
「いや、そんな厳しい神様じゃ……」
大が首を傾げると、ふいに誰かに背中を叩かれた。塔太郎も同時に叩かれたらしく、振り向いてみればポロシャツ姿の玉木が立っている。
「あれ、玉木さん? 確か、竹男さんと御金神社の方へ聞き込みに行ってたんじゃ……」
大がそう言いかけると、玉木は黙って塔太郎の顔に手を伸ばし、いきなり鼻をつまみ始めた。
「ぷぇ」と空気が漏れるように塔太郎が声を上げる。
「ちょ、ちょっと玉木さん。塔太郎さんは先輩ですよ」
大が慌ててたしなめるが、不思議と玉木は笑うだけ。すると、社の横にある巽橋からカラスが観光客の間を縫うようにやって来た。
「あっ、旦那様、またそんな事して。もう人は騙さへん、いう約束どしたやろ」
「何や、口うるさいやっちゃな。お前はわしの嫁か」
明らかに、玉木の声ではない。カラスが旦那様と呼んだ事からもしや、と思えば玉木は一瞬で火の玉のように小さくなり、また人の形に広がったかと思えば、今度は違う男性になった。
先程と同じポロシャツで、竹男と同年代ぐらい。硬派だが、髪型はラフに整えられた七三分け。この姿ならば大も人外課就任直後に会った事があり、この男性こそが、辰巳神社のご祭神、辰巳大明神であった。
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