序章「京都府警の、雷のエースと魔除けの子」

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彼らが岡崎で鬼退治をしていた時。 場所は変わって、京都市、中京区。 京都屈指の幅広を誇る御池通りと堀川通りの交差点、「堀川御池」を西に入ると、空海が善女龍王を呼んだ場所として著名な神泉苑がある。 ここを過ぎると、すぐそこに、昭和の雰囲気漂う喫茶店がある。 喫茶店「ちとせ」の中は、今は静かであった。 従業員である塔太郎達が出払っているため、表には準備中の看板を掲げているからだった。 提出された書類をざっと見て、京都府警の人外課、その警部補である深津勲義(ふかづ いさよし)は、自分の前に座る女の子へと目をやった。  話には聞いていたが、と書類と本人を見比べる。 小柄で、綺麗な黒髪をかんざしでまとめ、ちょこんと座っているこの女の子が。強力な魔除けの力を持って、太刀を振るうとはとても思えない。 しかし正式な比叡山からの紹介であり、京都府警と、今年の審判である八坂神社の両方が合格とした新人の人外家である。 それを信じない訳ではなかったし、何より、人外家というのは見た目と強さが比例せず、叩けば折れそうな老婆が、完全武装の落ち武者を札一つで追い返すなど、京都ではいくらでも聞く話であった。 「あの……大丈夫でしょうか」 深津が無言で書類を見ていた事を不安に思ったのか、その女の子、古賀大(こが まさる)が小さい声で尋ねてきた。 太刀一つで審判員との立ち回りを演じたというのにしては存外気が小さいようだが、深津はにこやかに笑って安心させた。
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