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最初にドアのベルを鳴らして入ってきたのは、若い、童顔の男性だった。
深津から彼が坂本塔太郎だと告げられて、いつも通り戦果を報告しようとした塔太郎と目が合った瞬間、大は席から立って頭を下げた。
「初めまして! 私、今日からここで人外家となります、古賀大と申します! よろしくお願い致します!」
帰って来た一行は、緊張気味の気迫に一瞬きょとんとした。中でも新しい仲間となる大を、黒い目でじっと見つめていたのは、塔太郎だった。
「古賀さん」
「は、はい!」
「……って、女の子やったん? 深津さんから聞いてて、てっきり男やと思ってた! 女の子って初めてや!」
隣の年上らしき女性が「ちょっと、私いるやん」と言い出し、「いや、琴子さんは……」「はあ?」という二人のやり取りは、とても楽しそうである。
後ろで苦笑いしながら見守っている男性は「ちとせ」店長の天堂竹男、「俺と幼馴染やねんで」と、深津が教えてくれた。
横からコーヒーを出してくれたのはその部下、御宮玉木という珍しい名前の巡査部長であった。
六人揃った店内は一気に明るくなって、中でも元気なのは塔太郎だった。
「女の子いたら、やっぱ華やかになるなぁ。名前も京都らしくて、可愛いやん」
「そうですか? 男の子みたいで変、って言われた事もあるんですけど……」
「何でえな。大文字山の大やろ?」
大は思わず、何度も頷いた。
「はい、そうです! 大文字山の大です! よく、分かりましたね」
「京都で、しかも女の子にわざわざつけるんやったら、何となくそっかなぁって思ってん。男の子みたいってのは分かるけど……みちるとかいう名前もあるし、まさるもええなぁ」
うんうんと一人で納得し、「俺も子供生まれたら、そんな名前にしよっかな」と言う塔太郎は、まるで少年のような言葉遣いに、純粋な笑顔。
大は太陽のような印象を受けた。新しい職場でいじめられはしないかという緊張が、みるみる溶けていく。
名前の由来を一度で当てられたのは初めてだったのも、嬉しかった。上手くやれそうだ、と大は感じた。
あっ、そうや、と、塔太郎が顔を上げた。
「深津さん。通報のあった人外を捕まえてきました。後で取り調べ、お願いします」
「うぃ。分かったー」
大が窓から店の外を見てみると、鬼が渋い顔をして縛られ、地べたに寝かされている。
大は思わずぎょっとして、窓に隠れた。
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