序章「京都府警の、雷のエースと魔除けの子」

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こうして、新人の大を迎えた喫茶店「ちとせ」は新たな一歩を踏み出した。 人外の通報や相談さえ入らなければ、「ちとせ」はごく一般的な喫茶店である。 厨房を、オーナー店長の竹男と古参の琴子が担当し、狭い店内を、塔太郎と大が給仕やレジにと歩き回る。 二階には、深津勲義と御宮玉木が通報や相談を受ける事務所として常駐している。 満席の時は深津も玉木もよほど手伝いたいとは思うのだが、警察官という身分上、それはできない。 喫茶店の合間に、あれを追い払ってくれ、どれそれを見つけてくれ、という依頼や通報が事務所に来ると、店を閉める。 そうして、人外特別警戒隊の八坂神社氏子区域の担当人外家として現場に赴くのである。 京都府警と寺社仏閣から任された人外家は、そうやって、表の顔は店やサークルといった一般集団、裏の顔は人外対応のスペシャリストとして京都に拠点を構えている。 今年で二十歳の大は、紫野高校を出て一年の修行を積み、八坂神社の採用試験を受けて、人外家となった。 化け物と戦う兵隊のような仕事であるし、もっと厳しい職場かと思っていたが、ちとせで働き始めてすぐ、皆の優しさから、す ぐに打ち解けられた。 時に姉、時に母のような山上琴子と、マイペースなオーナー兼店長の、天堂竹男。 人外課警部補であり、八坂神社氏子区域事務所を統括する深津勲義と、その部下である巡査長、御宮玉木。 そして、喫茶店業務の相方で先輩の、坂本塔太郎。 同じ仕事内容ということで、自然に塔太郎からは教わることや喋る事も多く、どんな質問をしても彼は相手をしてくれた。 また、男から見れば長い髪は憧れらしく、大のかんざし姿をしきりに褒めてくれた。 ゆるい適当さを持ちながらどこか古風で、その言動のバランスの良さを、大はいいなと思うようになっていた。 やがて深津以外には本人達の要望から「塔太郎さん」「琴子さん」と名前で呼べるようになり、時に厳しく、常に楽しくな大の人外家生活は、上場の幕開けであった。
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