序章「京都府警の、雷のエースと魔除けの子」

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京都市左京区にある、平安神宮。 紅い大きな応天門は、岡崎と呼ばれるここら一帯の、ランドマーク的な存在である。 その応天門から、遥か東にそびえるのは八月の送り火で名高い大文字山。 五月の今日、山の緑は裾も頂も瑞々しい。空もまことに晴れている。 丸太町から平安神宮まで歩いてきた天堂竹男(てんどう ちくお)は、その足を止め、しばらく立ちんぼうで周りを眺めていた。 四十代の独り歩き、ええ景色やなぁ、と、上着からスマートフォンを取り出して、写真を撮る。五月の風が、竹男のジャケットなびかせる。 京都の北、修学院に生まれ育って四十数年。いまさら平安神宮を別段珍しいとは思わなくても、よい景色にはやはり、カメラを向けたくなるものだった。 平安神宮から南に伸びる神宮道(じんぐうみち)は、近年車道と歩道との段差が取り払われて、平坦で広い参道となっている。 幅数十メートルもある両端は、街路樹が列を成して木漏れ日を作り、向こうに、平安神宮の目印と名高い朱色の大鳥居が見える。  神宮道の横に、芝生の広場と文化ホールのロームシアター、蔦屋書店がある。そこに併設されているスターバックスまで歩いた竹男は抹茶フラペチーノを買った後、再び外へ出た。
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