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整備されて見通しが良くなった広場は親子連れが集い、竹男の前を、三歳くらいの男の子が父親とゆっくり走ってゆく。
そうやって十分ほどぼんやりしていた時だった。何やら、大鳥居の方が騒がしい。
竹男が気配を感じて顔を上げると、大鳥居の方から、何かががゆるい弧を描く流れ星のように飛んできた。
竹男はぎょっ、と驚き、すぐに飛んできたそれが人間、自分の部下だと気がついた。部下はそのまま、着地失敗の反動で、神宮道を転がっていった。
「痛ったぁー!」
部下はそう大げさに叫んだあと、頭をさすりながら立ち上がる。
袴姿の上から軽武装した、童顔の青年。涼しげな黒い短髪に、濃い目の眉毛は古風なスポーツ少年を思わせるが、歳は二十を越えて数年たつ。
竹男は驚いて、うっかりフラペチーノを落としそうになった。先程の親子は何も知らずに、部下の方を見ようともせずに遊んでいる。親子だけでなく、周りの人々は皆、見えないのだ。
部下は幽霊ではないが、普通でもない。化け物退治中の今は、霊体に近い半透明状態の人間である。
この部下は、坂本塔太郎(さかもと とうたろう)という。京都府警のエースである。
京都府警、とするには語弊があるかもしれない。だがあながち、間違いでもない。
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