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彼は頭をさすって痛がってはいるが、黒いスポーツ刈りの頭を元気に振っているところを見ると、軽傷らしい。
もとより、竹男は心配する気もなかった。それぐらい、彼は丈夫であるという事は重々承知していた。
「そんな痛ないくせに、大げさやのー」
と言いつつ、竹男が再び大鳥居の方を見てみると、三メートルくらいはなかろうかという大きさの、熊とも見える化け物が立っていた。
毛深いが、道のど真ん中を二足で歩いてきて、よく見ると頭に角がある。鬼なのかもしれない。
塔太郎が転がってきたのもその化け物の方向からで、おそらく大鳥居の向こうから放り投げられでもしたのだろう。
塔太郎は構え直した。化け物も馬鹿ではないらしく、慎重さを保ったまま歩き続ける。
その間も、ずっと車や通行人が、塔太郎や化け物をすり抜けていく。誰も、何にも気づかない。意識下にない。
実は京都は、平成に入った今も神仏によって守られている。その不思議なご加護で、人には化け物が見えないように、ぶつからないようにされているのである。
ふ、と風が吹いた時、塔太郎と鬼はお互い一息に飛んで、拳をぶつけ合っていた。
塔太郎がすかさず鬼へ蹴りを入れたかと思えば、鬼は腕を振り回して塔太郎の体ごと払いのける。
一回転して上手い具合に着地した塔太郎は、負けじと鬼の腹に一発お見舞いする。かなり効いているようだった。
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