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こんなに激しい戦闘なのに、これら一連の流れは、人には全く見えない。
せいぜい、風として感じるだけである。
実際、塔太郎が神宮道を転がった時も、周りの人々は「今、凄い風じゃなかった?」、「うんうん。この時期、風強いもんなぁ」としか言わず、今見ても、人々は面白いことに戦闘のそばや真っ只中をすり抜けていくのである。
そんな平和な人々の間を縫って、塔太郎と化け物は依然交戦中。それが見える竹男からすれば、平和なんだか戦場なんだか分からなかった。
だんだんと劣勢に追い込まれた化け物は、奥の手と言わんばかりに塔太郎から距離を置き、何やら呪文を唱え始める。
一体どこでそんな技を覚えたのか分身し、やがて鬼は三つになった。
「えぇー? せっこ!」
これには塔太郎も驚いていたので、さすがに助けたらなあかんかな、と思った竹男は、鞄から自分の武器を取り出した。
鞄の中からぬっと出て来るのは、山刀と間違うほどの太さの脇差。
自身も半透明になって、さぁ行こうと思った矢先。その背後から、同じく半透明の薙刀を担いだ三十代の女性が竹男を抜かし、鬼の一体へと駆けて行った。
袴に脛当て、黄色の着物に襷がけが凛々しい山上琴子(やまがみ ことこ)は、ショートの黒髪をふわりと揺らして足に力を入れて跳躍し、薙刀を鬼の背中へと突き立てた。
「おぉ。琴子ちゃん、やるやん」
化け物の悲鳴を聞きながら、竹男は呟いた。
あの突き刺し方は完全な自己流である彼女の得意技であるが、竹男は感心するたびにいつも、刺すんやったら槍にしたら? と考えたりする。
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