序章「京都府警の、雷のエースと魔除けの子」

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が、彼女は相棒の薙刀を手にして二十年。今年で三十四歳である琴子は、化け物退治はベテランである。 問題がない限りその戦闘スタイルは変えられへんやろし、変えたくもないやろなぁ、と、竹男は思った。  琴子の薙刀によって刺され、続けざまに脛を斬られた化け物の分身は、そのまま倒れて消えてしまった。 もう一体も、突然仰向けになってひっくり返る。 誰かが鬼を撃ったらしい。辺りを見回してみると、竹男の後輩である巡査部長、御宮玉木(みや たまき)が、拳銃を鬼の分身へと構えていた。 彼は奴が起きてこないかとまだ警戒していたが、急所に命中したのか、鬼の分身は砂のように崩れていった。 玉木はほっとして構えを解いて、竹男は「配属直後から成長したなぁ」と、内心で拍手を贈った。 玉木は制服ではなく一般的なスーツのため、フレームレス眼鏡をかけた彼は、まるでスパイ映画の花形役者のようだ。  残る鬼の本体は、元通り、塔太郎の相手である。 「お疲れ様です」 撃たれた分身が完全に消えたのを確認してから、玉木が竹男に駆け寄ってきた。竹男もお疲れ、と返したうえで、 「お前ら、何でこんなとこいんの? ここ岡崎は左京区、俺らの管轄は主に中京区やろ。全然ちゃうやんけ」 「最初の現場が、中京区だったんですよ。あと、祇園ですね。人に化けて、観光客を恐喝してる鬼がいるって通報が入って……僕らが行くと、鬼が暴れて逃げちゃったんです。それで塔太郎さんがずっと追いかけてくれて、ここまで追い込んだんです」 玉木の言う中京区、祇園、そしてここ岡崎まで走った道筋は不明だが、それらを直線距離にすると、ゆうに三キロ以上あるのではあるまいか。 「毎度走っとんなぁ、あいつ」 もう飛んだらええのに、と、竹男冗談混じりに呟くと、玉木も笑う。 「でも走りっぱなしから、ああやって格闘するんですから、凄い体力ですよね」 「そらぁ、あいつはそれが取り柄やもん」 直後に轟音がして、その方を見てみると、塔太郎が決着をつけていた。 仁王立ちの塔太郎の右手はまだ小さな雷が手から二の腕にかけてぱちぱちと走っており、鬼は大の字になって伸びている。 さすがの通行人も、音だけは聞こえたらしい。聞こえた雷鳴に夕立を気にする人もちらほらいたが、空はやはり、よく晴れていた。
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