序章「京都府警の、雷のエースと魔除けの子」

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「おーい。被疑者、確保け?」 大声で竹男が尋ねてみると、戦い終えた塔太郎は竹男の方を向き、子犬のように、表情をぱっと明るくさせた。 「竹男さん、来てはったんですか。お疲れ様です! 見て下さい。俺、今日めっちゃ頑張ったんですから」 「うん、お疲れー。玉木から聞いたし、見てた。……って。持ってこんでええって! もうええって! 見せんでええしそんなん。何でこっちくんねん!」 自分の倒した相手を見せたいのか、塔太郎が鬼を手早く紐で縛って、おぶるように竹男のそばへと運んで来た。 が、塔太郎の背丈が鬼より小さいため、背負い切れずにあまった鬼の下半身はだらりん、ざざーっと引きずられている。 「重そうやなー。向こう置いてこいや」 「でも、目覚めたりしたら危ないですし」 竹男が背負われた鬼に近寄ってみると、毛むくじゃらの鬼は完全に白目であった。 起きるどころか、生きているかどうかすら心配になるほど動かない。 「それにどの道、こうして店まで連れてくんで……。取り調べせな駄目ですから」 「それ背負って帰んの? っていうか、ちゃんと喋んの? こいつ」 「熊みたいですけど、人間から金ゆすってましたからね。頭はいいと思いますよ」 やがて追いかけてきた琴子が、よいしょ、と、垂れていた鬼の下半身を右肩に担いで、竹男に頭を下げた。 「お疲れ様です、竹男さん。今日はお休みって聞いてますけど、すみません、お騒がせしてしまって」 「かまへん、かまへん。どうせ店に顔出す予定やったし」 しかし行ったら最後、俺もこいつの取り調べに付き合わされたらどうしよ。休日やぞ、と考えていると、竹男の背後から老婆の声がした。 「お巡りさん、いつも大変やなぁ」 草木で染めたような色のキャリーカートを押すそのお婆さんに、竹男も塔太郎たちも驚いた。
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