4579人が本棚に入れています
本棚に追加
「おーい。被疑者、確保け?」
大声で竹男が尋ねてみると、戦い終えた塔太郎は竹男の方を向き、子犬のように、表情をぱっと明るくさせた。
「竹男さん、来てはったんですか。お疲れ様です! 見て下さい。俺、今日めっちゃ頑張ったんですから」
「うん、お疲れー。玉木から聞いたし、見てた。……って。持ってこんでええって! もうええって! 見せんでええしそんなん。何でこっちくんねん!」
自分の倒した相手を見せたいのか、塔太郎が鬼を手早く紐で縛って、おぶるように竹男のそばへと運んで来た。
が、塔太郎の背丈が鬼より小さいため、背負い切れずにあまった鬼の下半身はだらりん、ざざーっと引きずられている。
「重そうやなー。向こう置いてこいや」
「でも、目覚めたりしたら危ないですし」
竹男が背負われた鬼に近寄ってみると、毛むくじゃらの鬼は完全に白目であった。
起きるどころか、生きているかどうかすら心配になるほど動かない。
「それにどの道、こうして店まで連れてくんで……。取り調べせな駄目ですから」
「それ背負って帰んの? っていうか、ちゃんと喋んの? こいつ」
「熊みたいですけど、人間から金ゆすってましたからね。頭はいいと思いますよ」
やがて追いかけてきた琴子が、よいしょ、と、垂れていた鬼の下半身を右肩に担いで、竹男に頭を下げた。
「お疲れ様です、竹男さん。今日はお休みって聞いてますけど、すみません、お騒がせしてしまって」
「かまへん、かまへん。どうせ店に顔出す予定やったし」
しかし行ったら最後、俺もこいつの取り調べに付き合わされたらどうしよ。休日やぞ、と考えていると、竹男の背後から老婆の声がした。
「お巡りさん、いつも大変やなぁ」
草木で染めたような色のキャリーカートを押すそのお婆さんに、竹男も塔太郎たちも驚いた。
最初のコメントを投稿しよう!