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未婚者移住計画
「何度行っても飽きない店だね、あのカフェは」
力説する佑樹に朱里は雑誌をめくりながら応えた。
「へぇー。佑樹に、そんな何度も通ってるカフェがあったんだね。意外」
ダラダラしてるのが好きなのにね、という言葉は家に来て料理を振る舞ってくれている彼氏に言うべきではないと思い飲み込んだ。
「え?まだ1回しか行ってないよ」
「何それ」
まさかの返答に驚いて顔をあげると佑樹が得意気な顔で木べらをぶんぶん振り回して言う。
「1回しか行ってなくても、俺の中のお気に入りに入ったんだよ。大体1回目で気に入らなかったら2回目、3回目なんてないからね」
まぁ一理あるけどねと朱里はうなずいた。
「焦げるよ」
朱里に促されて佑樹は焦げる焦げると繰り返しながらコンロの前に戻った。
今度はコンロの前から離れずに佑樹は続ける。
「それに、カフェなんだけど雑貨も本も沢山あってさ、絶対朱里も気に入るよ」
確かに雑貨好きな上に最近では読書カフェにもはまっていた。
「で、コーヒーの味は?」
「え……どうだったかな」
本日2度目の何それを言って朱里は盛り付けられた炒飯を受け取った。「おいしいそう!」
「だろ?いつでもお婿に行けちゃいますよね」
「行く先があれば良いですね」
ニコニコして正面の席に座る佑樹に笑顔で応える。
「俺はそろそろいい時期だと思うんだけどな」
首をかしげて佑樹も炒飯を口へ頬張り、おいしいおいしいと自画自賛している。
去年辺りから佑樹は色々な形で何度となく結婚の話を振ってくるが。
朱里は、いつも曖昧に笑うだけだった。
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