14人が本棚に入れています
本棚に追加
辺りは暗かった。
急に足が軽くなって、そのせいですごく足が痛かった。外は眩しくって、眼の前に知らない男の人たちがいて、僕は泣きだした。
変だ、泣いてる声が聞こえない、僕の声なのに、聞こえない。
男の人たちが僕を指差して何か喋っていた。口が動いてる。一人の人がそっと僕を持ち上げてくれた。何かに寝かせられて白い車の中に乗せられた。起き上がろうとするのを何度もあの優しい手が抑えてくれた。
怖かった、頭を撫でられて手を握ってくれたけど、車の動くせいで気持ちが悪くなった。起こされて何かが口の前に突きつけられて、僕は何度も吐いてしまった。
場所がぐるっと変わる。白い冷たいベッドがある。僕は部屋の隅っこで膝を抱えて眠ってる。抱き抱えられてベッドに乗せられるけど、誰もいなくなると部屋の隅に行った。壁が抱いてくれる。後ろから守られてる気がした。
あの人が来た。車に僕を抱いて乗せてくれた人。車の中で僕の手を握ってくれた人。頭を撫でて手を伸ばすから僕はその手にしがみついた。
ベッドに寝せられて、手を握ったまま僕は寝た。その手をいつまでも握っていたいのに…… 。
また景色が変わってしまう。
たくさんの子どもたち。優しい目をしたよその人。たくさんの中の独りの僕。
字を教わる。忘れてしまった声の出し方を教わる。出てるのかどうかも分からない。舌を掴まれてあちこち動かされる。痛い。怖い。
街に出る練習もする。街で先生に手を引かれながら自分が何か言った気がした。知らない子が指差して笑う。笑う。笑う。
口を開くのをやめた。
最初のコメントを投稿しよう!