第1回 人はなぜ本を返さないのか?文学賞 応募作品

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第1回 人はなぜ本を返さないのか?文学賞 応募作品

ああ、またやってしまった。心の中でそう小さく溜息を吐く。 葉書に印字された『貸出本 延滞のお知らせ』。この葉書が家に来るのはこれで3回目だ。 来る度に気を付けようと思うのだが、気付けば同じことを繰り返している。 「あんた!この葉書家に来るの何回目よ。 本は借りないようにってあれほど言ったじゃないのッ!」 リビングで料理をしていた母が声を荒げてそう叫んだ。 分かってはいる。期限内に返すよう心掛けてはいるが、ふっと気が緩んだ時に 同じ過ちを繰り返してしまうのだった。 「ごめん、母さん。次回からは気を付けるよ」 俺がそう言って同じ過ちを繰り返すことを母親は知っている。 知っているからこそ尚、やかましく言うのだろう。 しかし仕事で疲れて帰ってきた所為か、どうしても返事がぶっきらぼうなものになってしまう。 「誰も予約してないんだし良いじゃん。重大な罪に問われるような事でもないしさ」 ああ、なんて身勝手な言い分なのだろうと我ながら呆れる。 確かに、これは犯罪になるような事ではない。 だけど、自分のした事で図書館の人は困り果てているだろう。 延滞している人がいないか調べ、該当者が居たら葉書で住所と催促の手紙を書いて送る。 今は機械化が進んでいて、そこまで手間がかかるわけでも無さそうだが、それでも大変な作業のはずだ。
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