教科書見せて編

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教科書見せて編

「よーし、じゃあ授業を始めるぞ」 「あっ、先生。僕まだ教科書届いてないんですけど」 健が申し訳なさそうに手を上げて言った。これはもしや、とお約束展開を期待して花子の目がきらりと光る。 「ああ、そうか。じゃあとな」 「はい、先生!隣の席の私が見せてあげます!下心なんてありません!ただの親切心です!」 食い気味の花子に先生は思わず苦笑いである。 「お、おう、そうか。じゃあ山本、頼んだぞ」 真顔で親指を立ててグッジョブサインを送る花子。それを見て、なぜか健まで先生にグッジョブサインを送った。 先生は見なかったことにして、黒板に数式を書き出した。いちいち花子に構っていては授業が進まないことを、先生はもう嫌というほどわかっていた。 やれやれ粋じゃないね。だから彼女もできないのよ。と失礼なことを思いつつ、花子は健と席をくっつけた。 「ごめんね、山本さん。今日1日見せてもらうことになるけど、よろしくです」 爽やかな笑みと謎のシトラス系の香りを間近にして、花子の心臓は激しくエイトビートを刻んだ。もうドッキンドキドキ、ドキンちゃんである。 「う、うん」 机と机の間に教科書を置く花子の指先まで真っ赤だった。
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