幻のお姫様抱っこ編

1/1
前へ
/16ページ
次へ

幻のお姫様抱っこ編

「あれ、そういえば木村くんが私を保健室まで運んでくれたんだっけ?」 「うん、そうだよ」 「ごめんなさい、重かったでしょ私」 恥じらいつつ聞く花子。貪欲にお約束を求める以外は、けっこうな乙女である。 「なんのなんの。こう見えてお手玉で鍛えているからね」 健は腕を曲げて力持ちをアピールした。自称お手玉で鍛えたその腕は、細身のわりに引き締まっている。砲丸でも使ってお手玉をしているのだろうか。 「へえ、お手玉ってすごいんだね。それで、その…」 「ん、なに?」 「運んだって、どういう体勢で運んでくれたのかな?」 花子の脳裏には、頭と足を抱えて持ち上げられる、いわゆるお姫様抱っこがイメージされていた。 だとしたら覚えていられなかったことが非常に悔やまれる。となると、お約束ハンター花子のとる行動はひとつしかない。 「ちょ、ちょっと再現してもらっていいかな」 花子は、はあはあと荒い息づかいで摩訶不思議なお願いをした。お約束関連になると花子はちょっと頭が弱くなり、理性もけっこう失われる。 「うん、いいよ」 にこにことして頷く健。趣味がひとりじゃんけんの男は、たぶん心に余裕があるのだろう。細かいことは気にしないらしい。 ベッドから立ち上がり、お姫様抱っこを待つ花子はドキドキであった。 こんなにも立て続けにお約束が実現されるなんて、今日はお約束デーなのかしら!? 「よっと」 夢見心地な花子の体が、ひょいと健の肩に担がれた。まるで米俵でも担ぐかのようなその手際はまさに。 「ちょっと木村くん、これは人さらいの手口よ!?」 「いやあ、お手玉をしていたせいか、こうやって持つのが楽なもんで」 「いや、お手玉関係ないし!?」 花子が珍しく突っ込みとして機能したその瞬間、保健室の扉がガラリと開かれた。 「失礼いたしますわ、ってきゃあ!保健室でなんてハレンチな!不潔ですわ!」 扉を開けたのは金髪縱巻きロール、校則違反寸前のフリフリのレースをふんだんにあしらった制服を着た、絵に描いたようなお嬢様だった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加