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仕事が終わり、家に帰ってくるのが苦痛だった。けれどどうせ明日も仕事はある。家に帰らないわけにも行かない。
重い身体、脈打つ心臓を携えて、ドアを開けた。震える身体を叱咤しながら、箱庭を覗いた。
虎がいない。象と馬と虎だけがいなくなっている。
僕は膝から崩れ落ちた。
もはや部屋の中を捜索する気にもなれない。それは確信にも似た何かだった。
いくら部屋を探しても、象は姿を消したまま。
いくら部屋を探しても、馬は姿を消したまま。
いくら部屋を探しても、虎は姿を消したまま。
見つからない気がする。見つかるはずがない。
生き物でできた輪は大分欠けてきた。これからもきっと、一日一体ずつ、消えていくのだろう。
誰が、どうやって、なんのために。一欠けらとして想像がつかなかった。消えたものは本当にただの模型、玩具だ。何の意味も、価値もない。適当に選んだだけのそれが、何故姿を消す。
ふと思う。
もし箱庭の中の生き物たちがすべて消える――10体すべて、あと7日後には、何が起きるのだろうか。消すものがなくなって、盗り去るものがなくなったとき、この怪異は終わるのだろうか。
もうこだわりなんてどうでもよかった。箱庭で輪を作っていた生き物たちをすべて、元あったラックの中へと片付ける。人、猿、猫、犬、キリン、兎、鶏、残された模型たちはガラスでできたラックに収まり、青い箱庭の中には木と石の模型、それと底を覆う白い砂だけが残された。
盗られるのならば、いっそ片付けてしまえばいい。
すくなくともこれで、帰ってきて恐る恐る箱庭を覗かずに済む。
「……、」
いつの間にか上がっていた呼吸が、元に戻る。だるい身体を引き摺り、風呂に入って寝た。明日からは何もない。何も問題はない。日常は戻ってきたのだと。
朝起きて、箱庭を覗く。昨日と変わらず、箱庭の中には何の生き物もいなかった。
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