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「おいお前大丈夫か?顔色酷いぞ。」
心配そうに顔を覗きこむ同僚に心配するなど手を振る。
「ああ……ちょっと不眠気味なんだ。」
「不眠って……何かあったのか?」
親身に話を聞こうとしてくれる同僚に口が滑りかけるが、すんでのところで飲み込んだ。言ったところでどうにかなるわけではないし、むしろ馬鹿なものを見るような目でこの気の良い同僚に見られたら耐えられない。状況整理すれば、大したことじゃないってことはわかってる。でもこの苦しみは実際にあの部屋で一人で住まないとわからないだろう。
「……夢見が悪くてな。」
「悪夢かぁ、それは辛ぇな。」
「とりあえず、今日からしばらくはカプセルホテルなりに泊ることにするよ。」
とりあえず、模型は10個しかないのだ。それまで耐えてしまえば、なんてことない。いい大人だ。別に家に帰らなくても大した問題はない。して言うなら出費がかさむが、あの部屋で神経をすり減らすよりもはるかに良い。
「なあ、良かったら俺の家来ないか?悪夢ってェなら一人よりも二人の方がまだ心強いだろ。」
「……良いのか?」
「ああ!お前さえよければ。まあ明日も仕事だから酒盛りはできねえが、適当に食って馬鹿な話しようぜ。適当に眠気が来るまで付き合ってやるからよ。」
「お前……良い奴か……、」
大学時代の友人ならいざ知らず、ただの同期の同僚にここまで気にかけてもらえるとわかると荒んだ心にしみわたる。気軽に話ができる、絡めるというのは大切だ。これで親交を深められたというなら、存外今回の怪異も悪いものばかりじゃないと現金なことを思う。
結局その日は家には帰らなかった。
深夜まで同僚の家でチープなものを食べて、馬鹿な話をしてジュースを飲んで。気が付いたらフローリングで雑魚寝をしていた。若干身体は痛かったが、頭は大分すっきりしている。やはりあれのことを気にしないでいいとなるとかなりストレスから解放されるようだった。癒されるための箱庭なのに、これほどアレに振り回されるとなると認識を改める必要があるかもしれない。
朝起きて、箱庭もラックも覗かなかった。
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