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同僚に泊めてもらった日の仕事終わり。僕はいったん家に戻ってきた。一日帰らなかったというだけで大分心に余裕が出てきていた。
家を出たときと何も変わらなければ重畳。変わっているとすればまた二つ、模型がなくなっているのだろうが、それだって想定内だ。慌てる必要も、恐れる必要もない。またなくなっただけなのだから。
一日だけ帰らなかった家は妙に懐かしい。迷わず箱庭へと向かった。
箱庭を覗く。箱庭の中には何もいない。砂と石と木の模型だけだ。
隣のラックを見る。ガラスの上には人、猿、猫、犬がいた。
キリンと兎が姿を消していた。おそらく、昨日のうちになくなったものと、今日の昼間になくなったものだろう。やはり、予想通りだった。
まず、象が消えた。
次に、馬が消えた。
次に、虎が消えた。
次に、鶏が消えた。
次に、兎が消えた。
次に、キリンが消えた。
あと四日。四日ですべてがなくなる。すべてが終わる、はずだ。
何故こんなことになっているのか、わからない。あの箱庭は何の意味もなかった。なんとなく作っただけのいつも通りの代物。そこに思想も価値も何もない。
誰が、どうやって、なんのために、なんてもはやどうでも良い。わからなくていい。ただこれが終わりさえすればいいんだ。
あと四日はもうここへは帰らない。ホテルに泊まるなりなんなりしよう。
朝起きて、貴重品をすべて持って家を出た。
何も変わっていないだろう箱庭は、もう見なかった。
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