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「え……?」
「えってお前……今日の午後の会議で使う資料だよ。作るように言われてただろ。」
「会議は来週のはずじゃ、」
「移動したんだよ!聞いてなかったのか?」
同僚の話に血の気が引く。聞いていない。確かに会議の資料作りの担当は僕だった。だが日付の変更は聞いていない。
「で、できてはいる!早めに作っておいたからそれは問題ない。」
慌てて鞄の中のUSBを探す。早め早めの行動に救われた。しかし探せども探せども件のUSBは見つからない。
「……作ったけど忘れた、みたいな?」
「それだ……、」
アパートに、しばらく帰っていないあの部屋に置いてきてしまったようだ。そうだ、思い返せばしばらく家に帰らないため鞄の中を整理したのだ。しばらく必要のない物は部屋に置いていこうと。
「帰って取って来い!お前のアパートそんなに遠くないだろ?昼休み潰せば十分取りに行ける。他の準備は俺がしとくから!」
「ああ、ありがと、」
そこでハッとする。
今日で、怪異が始まって10日目だ。
今日の夜、僕は全ての生き物の模型がなくなったのを確認する予定だった。
ゾワリと背筋が寒くなる。
今日で、すべてが終わるはずだ。
「……ありがとう、取りに戻ってみるよ。」
出来ればいつも通り夜に見たかったがそうも言ってられない。会議は急を要する。それをまさか家に帰るのが怖いから取りに戻れませんでした、なんて誰に説明できよう。
大丈夫だ。何の問題もない。僕に必要なのはUSB一つだけ。それを持ってさっさとまた会社に戻ればいい。それでまた家に帰って。何もかも終わったと安堵のため息を吐くのだ。
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