そして誰もいなくなった。

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 小走りでアパートの階段を駆け上り、久しぶりに鍵を鍵穴につっこむ。ガチャ、といつも通り開錠される音がした。けれど一瞬扉を開けるのをためらう。けれど入らないわけにはいかなかった。  大丈夫。何も問題はない。ラックには、何の生き物ももういないんだ。それからは僕の家に何の不思議なことも起きたりはしない。ただ会社から帰って寝るだけの場所。何の面白みもない、どこにでもあるようなアパートの一室だ。  ずかずかと中へと入り、頭ではひたすらUSBのことだけを考える。USBはすぐに見つかった。部屋のPCの側にあるそれをひっつかんで、さっさと部屋から出ようとした。  「……?」  何か部屋に違和感を感じた。  何かは分からない。けれどなにかがおかしい。普通ではない。部屋全体が、いや部屋の何かがおかしい。ぶわ、と汗が垂れた。何となしに勢いよく振り向いてみる。誰もいない。当然だ。この部屋には僕しかいないはずなのだから。  振り向いた先にあるのは、箱庭だけだった。やたらと、箱庭が気になってしまう。近づくべきでない。今すぐ会社に戻るべきだ。と頭はわかっているのに、気が付けば箱庭の目の前に来ていた。  箱庭の中にはなにもいない。白い砂、黒い石、木の模型でできた森。  次にラックに目を移した。  10日目、何の生き物もいないはずだった。  残っていたはずの、犬、猫、猿がいない。ガラスのラックには、人だけが取り残されていた。  「9……?」  何もいないはずの生き物の模型。取り残された人。  1日目、象が消えた。  2日目、馬が消えた。  3日目、虎が消えた。  4日目、鶏が消えた。  5日目、兎が消えた。  6日目、キリンが消えた。  7日目、8日目、9日目、猫と犬と猿が消えた。  僕が仕事に行っている間に、模型は消える。掛けられたままの鍵。一日一つずつ消える安物の模型。  10日目の今日、人が消える。  それは決まって、誰もいない昼間。  「っ……!」  室温がグッと下がった気がした。慌てて玄関に向かおうとしたとき、  ガチャリ。  施錠される音を聞いた。
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