第三章 燃える月と太陽の涙

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「……くっ!」  やがて柄を握り締めるエルの手が反動で緩むのが見えた。  ブルームがその隙きを見逃す訳が無かった。渾身の力を込めたとどめの一撃を放つ。 「────ハッ!」 「……っあ!」  ギャラリーから感嘆のどよめきが上がった。  弾き飛ばされた剣がくるくると回りながら弧を描いて落ちていく。  剣を弾かれた反動でエルの身体が傾いだ。  少し離れた地面に突き刺さったのとほぼ同時に彼は倒れ、ブルームはエルの白い喉元ぎりぎりへ剣先を突きつけた。  ────勝負有り、だ。  見守っていた観衆から大きな拍手が上がる。  剣を下ろし、ブルームは観衆の中に愛しい妻の姿を探し始める。  剣技を披露するのはこれで二度目だが、自分の勇姿を見ていてくれただろうか。  青年が情けなく敗北した姿を見て、何を思っただろうか。 (これで、ソフィーもきっと……)  しかし、全ては予想通りには進まない。 「エル!!」  悲痛な面持ちのソルフィオーラがギャラリーから飛び出して来て、無様に地面に手をつくエルの元へと駆け寄った。  青空のような瞳は涙を浮かべ、彼へ視線を注ぐ。心から気遣っているような眼差しだった。 「ああ、エル……!」 「お、奥様……! 大丈夫ですから……!」 「怪我は? 怪我はしていない……っ?」  信じられないことにソルフィオーラはエルの顔や身体をペタペタと触り出した。ブルームが見ている目の前で。
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