第四章 月はすれ違いの太陽を腕に抱く

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『幼馴染として、親友として――彼に代わり謝罪します。……本当に、申し訳ございません』  出発前、ノクスから謝られた。  執事ではなく幼馴染の顔を浮かべていた彼もブルームの行動が理解できなかったらしい。その謝罪にはブルームの幼馴染としての心情がたくさん込められていた。  だが、そんな心からの謝罪にもソルフィオーラは何も返すことができなかった。  結婚から一週間程度で妻が実家に帰るなんて公爵家にとって体裁が悪い筈だ。本来なら体面を保つためにノクスはソルフィオーラを引き留めるべきだった。  ソルフィオーラは決して離縁したいわけではない。あまりのショックに動揺し、何も考えられないだけなのだ。そんなソルフィオーラの心境をノクスは理解しているようだった。  だからソルフィオーラが『実家に帰りたい』と告げた時も引き留めたりはしてこなかった。 (……でも実家に帰ったところで、何か変わるのかしら)  むしろ嫁いだばかりの娘が突然帰って来て、父や母は大いに驚くことだろう。周りを巻き込んでまで望んだ結婚だったのに、一体何が起きたのだと騒がせてしまうことだろう。  セレネイド家から使者がやって来たあの日が懐かしく思えてくる。  あれからまだたったの三ヶ月しか経っていないのに。
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