第四章 月はすれ違いの太陽を腕に抱く

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 それはすれ違う前に過ごした夜、彼が言ったことだ。  ブルームの仕草にクスリと笑ってしまった瞬間を見られ、彼がそれを見惚れていたと言って。  「……皆、わたくしのことをまるで太陽のようだと言うけれど、……ちっとも太陽なんかじゃありませんわ。少なくとも、ブルーム様の前で太陽──自分らしく振る舞えていないもの」  ソルフィオーラ自身、性格は明るい方だと認識していた。  読んだ本に一喜一憂しては通りかかった侍女の手を止めさせて感想を熱く語ってみせたり(その度にエルに嗜められていたが最終的にはエルが聞き役になってくれていた)。  ブルームと初めて出会った夜もそうだった。幼い頃から愛読している『魔法の剣と青い月』を彼も読んでいたと知り、好きなシーンについて一方的に語ってしまったのを覚えている。  ブルームはこの時のソルフィオーラに恋をしたのだ。  今の自分はあの時彼が恋をしたソルフィオーラとは程遠い。 「……わたくし、ブルーム様を不安にさせてしまったのね。恋した相手が以前と様子が違って、気持ちが不安定になってしまう恋人たちのお話を読んだことがありますもの」  そしてソルフィオーラは未だに自分の想いをブルームに伝えていない。  好き。  愛しています。  夜を共にする度にそう想っていたが、口に出すには勇気が足りなかった言葉たち。  図書館デートの時のように、もっと早く、もっと早く一歩を踏み出せていたらきっとこんなことにはならなかった。
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