第四章 月はすれ違いの太陽を腕に抱く

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『本当によろしいのですか?』  脳裏に再生されるエルの声。  ────よろしい訳がない。  今ならまだ引き返せる。 「ちゃんと想いを伝えずして逃げるなんて……乙女の恥ですわ……っ!」  ハンカチで涙を拭い力強く言い放つと、エルはきょとんとした後クスクスと笑い始めた。 「……もう、エル。なぜ笑うのかしら?」 「フフッ、申し訳ございません。恋するお嬢様だったあの頃のようで、お可愛らしく思いましてつい」 「……まあ」  エルの返答にぽっと頬が熱くなった。  この流れに既視感を覚える。似たようなやり取りを最近した覚えがあるような。  熱くなった頬を押さえてエルを見やれば、クスクス笑いが止まり今度は柔らかな微笑みが向けられた。 「────ちゃんと想いを伝えられそうですね。今の奥様ならきっと大丈夫です」 「……ええ、きっと。ううん、絶対」  素直に頷き返す。  自然と表情が緩み、自分は今微笑んでいるのだと感じる。  あんなにぐるぐるぐちゃぐちゃしていた頭が今はすっきりしている。  もう迷いはなくなった。自然と微笑むことが出来たのがその証拠だ。
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