第四章 月はすれ違いの太陽を腕に抱く

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「それに……言うのを迷っていたことがあるのです」  さて御者に引き返してもらうようお願いせねばと思ったところへ、躊躇いがちなエルの発言があった。 「あら、エルが言い淀むなんて珍しいわね。どうなさったの?」 「旦那様の事です。……実は、時々旦那様から怪訝な目で見られていることがありまして」 「……ブルーム様が?」 「はい。……始めは気のせいかと思ったのですが」  怪訝な目。それはつまりエルに対し何らかの違和感を抱いているということだろうか。それも以前から。  全く気付かなかった。一緒に過ごさなかった時間の方が多かったのだからそれも仕方ない。というより、一緒に過ごしている間はエルやノクスがそばにいようと二人の世界だった故に気付かなかった、ということにソルフィオーラは気付いていなかった。   「それで昨日のことで思ったのです。旦那様は何か勘違いをされているのではないかと」 「……勘違いって?」 「もしかして旦那様は自分のことをお────」  その時、馬車が大きく揺れた。次いで馬たちの鳴き声がして、馬車が急停車した。  ガタンと跳ねるように揺れてソルフィオーラは前方に倒れ込んだが、エルに抱き留められたおかげで怪我は無かった。 「どうしたのかしら……?」  エルに支えられながら座り直す。  余程のことがない限り、普通は道の途中で停まったりしない筈だ。  心地の良いリズミカルな足音が急に途絶えた事に少しばかりの不安を覚える。
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