第四章 月はすれ違いの太陽を腕に抱く

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 二階で主に仕事をしているのはブルームなので、階段を昇りきると一気に静寂さを増す。  背中に突き刺さるノクスの視線を受けながら一階と同じ青い絨毯の上を進む。  一番南側にある執務室に入ったところで沈黙は破られた。 「……今朝屋敷を出て行ったよ」 「……そうか」  誰が、とは聞かなかった。聞くまでもないから。  ソルフィオーラが出て行った事実に胸が苦しくなる。昨日の今日で早速の行動……彼女が受けたショックは余程のものだったということだ。  自分はその事実を受け入れるべき。醜い嫉妬に動かされて妻の大切な人を傷つけたのだから。  ────そう、頭では分かっているのだが。 (……辛いな)  執務机に置かれた書類の束から一枚手に取り目を通そうとしても、内容が頭に入ってこない。  目はそこに向いているのに意識だけが向かない。  読み取った文字は全て意識の彼方に通り抜けて、頭に残らない。  あんなにも恋焦がれた太陽が、自分のもとを去った。自業自得だとしても、その事実はやはりショックだった。 「ねぇ、ブルーム。どうしてあんなことしたんだい?」 「…………それは」  口内で続きの言葉が消えていく。  醜い嫉妬に動かされた、と正直に告げたら流石にノクスも呆れるかもしれない。……もう呆れられているかもしれないが。
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