第四章 月はすれ違いの太陽を腕に抱く

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 長年傍で仕えてくれた幼馴染までいなくなったら、立ち直れそうにない。そう思ったらブルームは黙る事しか出来なかった。  しかし、その後のノクスの言葉でだんまりは続けられなかった。 「エルさんと奥様のことはブルームも予め知っていただろう?」 「……予め知っていた?」  何の事だろうか。ノクスの発言にピンと来ないブルームは眉を顰めた。  本来はあり得ない事柄。一介の騎士、しかも異性が令嬢の嫁ぎ先についてきた。そしてその騎士は令嬢の傍に侍り身支度まで手伝っている。  自分を差し置いて二人の事情をノクスは知っていたというのか。だというのなら何故教えてくれなかったのか。  不可解さに眉間の皺も深まるがノクスもまたブルームの反応に首を傾げていたので、つられてブルームも首を傾げる。 「……ノクス?」 「……もしかして、知らない?」  執務室に二人分の声が重なって落ちる。   「知らないって、何をだ?」 「……手紙が、あっただろう?」 「手紙……?」  ブルームの返しに、ノクスは言葉を失ったようだ。ぽかーんと口を開けて呆ける様子は珍しい。  いや、そういえばこの前も見た気がする。まだ童貞であることを告げた時もこんな表情をしていた。そんなことを思い出している場合ではないのだが。 「え? ……え? う、うそでしょ……?」  そうしてあの時のように我に返ったノクスの声には明らかな動揺が滲んでいた。
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