第四章 月はすれ違いの太陽を腕に抱く

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「…………」  完全に言葉を失ってしまった幼馴染を見て、ブルームは懸命に思い出そうとした。  ソルフィオーラとの婚姻に関係しているのならこの三ヶ月以内のことだろう。自分が記憶している限りのことを振り返り、ノクスの言っている手紙を探す。 (……手紙……手紙……────ああ、そういえば)  ノクスのお節介により起きた奇跡。  使者が婚姻の承諾の返事を持って帰って来てから一月後程経った頃のことだ。  結婚式の日取りについて了承の旨と、娘をよろしく頼みますと父親の言葉が綴られた手紙が届いた。  父親とはもちろんソルフィオーラの────。 「……伯爵からの手紙には、ちゃんと目を通し返事も出したはずだが」 「……本当に?」 「…………」  正直あの頃はソルフィオーラとの結婚に浮かれていた自覚はある。それを表に出すまいと必死に耐えたが。  ブルームは腕を組み、指をとんとんとリズミカルに動かす。目を閉じたところに、手紙が届いた日の記憶が蘇る。  その日は役所で仕事をして、夕方過ぎに帰宅した。  いつも通り恭しく出迎えたノクスを伴い私室へ、そこで手紙を受け取った。  封蝋はフランベルグ家の紋章だった。その場で開封し読んで──綴られた愛娘への愛情にじーんと胸を打たれたのを覚えている。  それから、感動的な一枚の手紙に────見せびらかすなど本当はよくないが、ノクスにお前も読むと良いなんて言って、渡して。
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