第四章 月はすれ違いの太陽を腕に抱く

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「……今すぐ追い掛けるよね?」 「もちろんだ」  ノクスの問い掛けに迷うことなく応えた。  聞けば出発してまだ一時間も経っていないらしい。ノクスはソルフィオーラを見送ってすぐここへ向かったのだそうだ。  王都へ真っ直ぐ続いている街道は現在塞がっている。遠回りになるがその反対側の街道から行くのなら、屋敷からの距離を考えたらまだまだ充分追い付けるところにいるだろう。  我が愛馬の脚ならきっとすぐに。  頭の中でソルフィオーラの元へ向かう最短ルートを導き出しながらブルームの手は机の上の書類に伸びていた。 「……三分だけ待て。急を要するもの、そうでないものに仕分けだけさせてくれ」  言葉通り今すぐ行くのだと思ったノクスの身体はドアに向けられていた。しかしブルームの言葉にピタリと動きを止め、呆れた表情で振り返る。 「真面目か! ……いやまぁ、ブルームらしいといえばらしいけど」 「すまない。だがしかし、これだけはやっておかねば……!」  長年真面目に生きてきた(さが)故か、心は今すぐにでも行きたいと思っているのに頭は仕事をほっぽり出して行くことを無しとしていた。  やれやれと言ったノクスの溜め息が聞こえても、ブルームの書類を仕分ける手は止まらなかった。
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