第四章 月はすれ違いの太陽を腕に抱く

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【3】  あの日感じたものを今でも覚えている。  こちらに向けられた刃の切っ先はやけに鈍く光っているように見えたこと。  恐怖に凍り付くと、身体は本当に動かなくなること。  だが、今は嫌でも動かなければならない。  決して離しはしまいと強く握り締める手に引かれながら、ソルフィオーラは恐怖で重くなった足を必死に動かした。 「奥様、頑張って……っ!」 「……っ、エル……!」  整備されていない地面はこんなにも進みにくいのかと身をもって実感する。  足場の悪さに足がもつれそうになりながらもひたすら走る。 「ヒャハッ! 逃げられるとでも思ってンのかぁ!?」 「大人しくすれば優しくするって言ったろう? ギャハハハッ」  後ろから追いかけて来る下卑た笑い声に鳥肌が止まらない。  ソルフィオーラたちを追いかけてくるのは山賊だった。  頭と思われる男に脅されるまま馬車を降りると馬車は数人の男たちに取り囲まれていた。  御者台を見ると肩を押さえた御者の姿があった。手の隙間から細長い棒のようなものが伸びており、肩を押さえる手は赤かった。  おそらく矢を射られたのだろう。狙撃されたせいで急停止させられたのだ。  まだ若いが馬の扱いがとても上手な青年である。せめて彼の無事を確かめたかったのだが。
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