第四章 月はすれ違いの太陽を腕に抱く

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(……無事だといいのだけれど……!)  動かない御者の姿を思い出す。  エルが隙を突き数人倒してくれたおかげで逃げ出せたはいいが、ソルフィオーラは彼を置いていったことに罪悪感を覚えていた。正直心配でたまらない。でも非力な自分に出来ることはなく、主の命を優先したエルの行動についていくしかなかった。  だが、普段身体を鍛えていない者が長く走り続けるのは無理がある。  ソルフィオーラの体力はもう限界だった。 「────あっ!」 「ソルフィオーラ様!!」  地面から突き出ていた石に躓き、ソルフィオーラは転倒してしまった。  その拍子に手が離れ、焦ったエルの声が森の中に響き渡った。 「大丈夫ですか……っ!?」 「はぁ……はぁ……ええ、大丈夫……」  すぐに傍まで駆け寄ってきたエルに支えられ立ち上がる。 「……ッ!!」 「ソルフィオーラ様!?」  しかし突然右足に鋭い痛みが走り、ソルフィオーラは再びその場に崩れてしまう。  右の足首が熱を持ったようにじんじん痛む。どうやら転んだ時に捻ってしまったようだ。  これではもう走れない。こうしている間にも、賊は着々と近づいてきているのに。 (どうしましょう。このままじゃ……)  捕まってしまう。そしてきっと想像も出来ないような惨たらしい目に遭うだろう。  逃げなければと分かっているのに、どうしても身体が動かない。  そんなソルフィオーラの様子に気づいてか、エルがこちらに背を向けてきた。
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