第一章 月と太陽のぎこちない初夜

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第一章 月と太陽のぎこちない初夜

【1】  周囲を豊かな自然で囲まれたセレネイド公爵家が統治するグレンツェンには広大な敷地を持った果樹園がある。  季節に合わせ色とりどりの果実を栽培し、ローゼリア王国内だけでなく自国と取引のある近隣国にまで出荷されている。  一口齧ればじゅるりと溢れる果汁、口の中に広がる果実の甘み。  中でも林檎が評判で、その美味さはいつも不機嫌な表情を崩さない領主の顔を僅かに綻ばさせるほどである。  さて、そんなグレンツェンの領主であるブルームの朝は早い。  東にあるアズール鉱山の後ろから昇る朝陽がグレンツェンの町並みを赤く染め始めた頃に起床。一応ノクスが主を起こしにやって来るものの、ブルームが起きるより先に来たことはない。  起床後、顔を洗ってから愛用の剣を持ち庭で素振りをする。  これは騎士学校に在学していた頃からの習慣だった。爵位を継ぎ、グレンツェンの領主となってからも欠かしたことが無い。  ――――自分を守るために、先祖代々に渡って守り続けたこの地を奪われないために。  本当は三十歳を目処に爵位継承を予定していた。     
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