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第四章 月はすれ違いの太陽を腕に抱く
【1】
パカパカと小気味よく刻まれる音に耳を澄ませる。
地面を蹴る馬たちの足音。寸分の狂いもなく軽やかに奏でられる音は耳にしていてとても気持ちいい。
空は快晴で暖かな陽射しが降り注いでいる。耳心地の良い音、そしてぽかぽかな陽気……それらに身を預けているとついつい瞼が閉じそうになる。
────昨日は一睡も出来なかったから、余計に。
「……」
蹄の音を聴きながら睡魔に抗っていたソルフィオーラは、小窓の向こうに広がる景色に目を向けた。
ぼんやりと見つめた先に広がる自然。あの日と違って可愛らしい桃色は見られない。とっくに花は風に流され散ってしまったのだろう。
――――そもそも、ここはあの日とは別の道なのだから景色が違って当たり前なのだが。
王都に真っ直ぐ続く街道は四日前に起きた土砂崩れによって依然塞がれたままだ。今も懸命に有志で集まった領民たちが復興作業に当たっていることだろう。……夫を筆頭にして。
ソルフィオーラが乗る馬車が現在進んでいるのは、その反対側にある街道だった。
行き先は、王都にある実家──フランベルグ家。
遠回りになる分時間は掛かるがこちらからでも王都へ向かえると知ったのは、昨日のこと。夫のいるキャンプ地からの帰り道でのことだった。
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