第二章 ままならぬ月と太陽の関係

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第二章 ままならぬ月と太陽の関係

【1】  神の前で愛を誓い夫婦となったばかりであれば、二人の間に流れる空気はさぞかし甘いだろう。  セレネイド家に仕える人々は恋煩いの溜め息を吐く当主の姿を見ているので、可愛い新妻を迎え二人きりの夜を過ごした当主の顔から不機嫌さは消えるだろうと誰もが思っていた。  結婚式から早くも三日が経った。  窓から差し込む朝の太陽でぽかぽかと陽気さに包まれた食堂。  そこはまるで葬式のように重苦しく静かな空気に包まれていた。誰一人口を開く者はおらず、カチャカチャと食器の擦れる音だけが響く。 「…………」 「…………」  当主夫妻――ブルームとソルフィオーラの間に会話は無かった。  ソルフィオーラは見るからに表情を沈ませていて料理を一口運ぶごとに溜め息を吐き、ブルームといえば一見したらいつもの表情――不機嫌そうに眉根を寄せた――のように思えるが、眉間に刻まれた皺が通常より二本多い。そして何故かこの三日間眼鏡を掛けていなかった。  そのせいで手元が見え難くいつもより余計に皺寄せているのかと皆は思ったのだが、ソルフィオーラの表情を見て二人の間に何かあった事を悟る。  タイミングを考えれば、何かあったのは初夜の時だろう。     
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