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 笑っちゃうよね。パーフェクトな人生なんてあるわけないじゃない。  言いながら、ルイは実際に笑っていた。笑いながら、髪を大きくかきあげた。大胆に開いた胸の谷間でアクセサリが揺れた。あたしとまったく同じシルバーのイチゴだ。無意識に、胸に手がいく。隠す必要なんてない。ルイも絶対に気づいている。おそろいだね。なぜ、そのひとことが言えないのだろう。それで、ルイが、そうだね、って笑って、すべて解決するかもしれないのに。いつまでも気づかないふりをして、問題をかえって深刻にしている。ユウ、これ知ってる? スマホを差し出すルイのくちびるには、まだかすかに笑みが残っている。あたしがアクセサリを隠したからだろうか。まさか、考えすぎだ。あたしがルイの真似をしたわけではない。高校生の時からつけているのだから。後からあたしと同じものを買ったのはルイの方だ。わざとなのか、偶然なのか知らないが、それだけははっきりさせておきたい。ルイの大きな瞳があたしをじっと見つめている。何もかも吸いこんでしまいそうなブラックホールみたいな瞳だ。   ルイのスマホにはいくつか画像が表示されていた。一つ目は、商店街のアーケードを下から写したものだ。アーケードが稲妻みたいな形に割れ、そこから青い空がのぞいていた。今朝のニュースで見た。昨日、光峰のショッピングモールの屋上から女子高生が飛び降りた。そして、アーケードを突き破って、その日オープンしたてのカフェ『ドロシー&ベルカ』の真ん前に叩きつけられて死んだ。  二つ目は初めて見た。路面いっぱいに氷のようなかけらが散らばっていて、『ドロシー&ベルカ』の店の外まではみ出した行列に並んでいる人たちが、カメラの方を見ていて、中には笑っている人もいて、氷のかけらがアーケードの破片だと気づいた瞬間、ぞっとした。あの行列にあたしもいたかもしれないのだ。オープン記念のマグカップ目当てのルイに誘われていた。もしもルイの都合が悪くならなければ、血の匂いが漂うカフェでコーヒーを飲むはめになっていたところだ。
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