今夜は手巻き寿司

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 昼間、近くの個人営業の小さなスーパーでアルバイトをしているルケルケ・7・トーは、消費期限が近い処分品を毎日格安で買っては、その日の晩ごはんの食材にあてていた。料理も立派な地球人の文化であり、その研究に余念のないルケルケ・7・トーである。  今夜のメニューは手巻き寿司だった。寿司桶に炊きたての白米を敷き詰め、お酢と砂糖をふりかけ、しゃもじで切りながらうちわで風を当てている。  すでに具は用意していた。ひとつだけ売れ残っていた刺身のパック。他にはソーセージ、きゅうり、ちくわ、チーズなど(もちろん全部売れ残り)が皿に盛られてはいたが、それだけでは足りないと、黒くなりかけたバナナ、油の酸化したカレーパン、固くなった大福なども適当な大きさに切られていた。攻める回転寿司店でもちょっとお目にかかれない具材である。売り物にならないから譲ってもらった、というただそれだけの巡り合わせで手巻き寿司の具にされた食品の気持ちはいかばかりか、きっと複雑に違いない。
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