プロローグ 七月二十九日

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 雨の中、俺は慌てて走り寄った。傾斜のあるブロックは雨で滑る。おっかなびっくり近づくと、その人はずいぶんデカかった。濡れた衣服の張り付いた体は、上背も厚みもある。筋肉質で、プロレスラーかボディビルダーのような。腕なんか俺の二倍はありそうだ。 「もしもし! 意識ありますか?」  パニックになりながら、しゃがんでその背中に声をかけても返事はない。生きてるか死んでるかも正直わからない。 「あ、そうだ、警察? ちが、きゅ、救急車っ」  慌ててスマホをお尻のポケットから取り出して操作しようとした俺の手首を、大きな手のひらでいきなり。 「――ひっ!」 「……ダメ」  ガッチリと掴まれて、思わず悲鳴をあげる。掴んだまま、ゆっくりと男は顔を上げた。 「ダメ、救急車、いらない」  雨にけぶる街灯の明かりにぼんやりと照らされた彼は、しっかりとした骨格の顎も、高く整った鼻筋も、厚く肉感的な唇も、ゆるくウェーブのかかった長い前髪の間に垣間見える彫りの深い眼窩も、全体的に大柄で日本人離れして見えた。美術館で見る、ローマの彫刻の神様のような。つまりとても、濃い顔の水も滴るいい男だ。 ――そう、実際濡れていた。髪も服も雫が地面に滴るほどに、びしょぬれだった。 「え、でも、大丈夫ですか?」  大丈夫だったらこんなとこで倒れてないと思うんだけど。酔っ払って川にでも飛び込んだんだろうか。出来上がるにはまだちょっと時間が早い気もするけど。 「んー」     
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