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でも彼は、俺の手首を掴んだまま、むくり、と身体を起こした。そうして、ブロックの上に正座をする。酔っ払っているようには見えない。けど、大きな背中を丸くして、ぺしゃりと座り込み覇気がない。やっぱりあまり大丈夫そうには見えない。
そのとき。
ぐぅ、と盛大な音が、静寂に響いた。
動揺していた俺にも、それがなんの音であるかは、判った。
「えーと」
彼は、開いた左手で自分の腹をさすさすと撫でる。良く見えれば前髪の間からこちらを見上げる眼光も、哀れっぽい。
「おなか、空いてる……?」
男はこくこくと子供のように頷く。
「ええと……あ、昼に食べ損なった、ドーナツならあるんだけど」
「食べる」
即答する。遠慮のえの字も気配はない。俺の手首をようやく離した彼は、むくりと立ち上がった。見上げて、思わずぽかんとする。
おそらく、190センチはあると思う。立たれるとすごい威圧感があった。大きな男の人が怖いと身構えてしまうのは本能で、俺は一瞬、誘ったことを後悔しかけた。
「おなか、すいた」
けど、その声があんまりにも情けなかったから、慌てて橋の下に連れて行く。濡れすぎてどうでもよくなってきた。
俺が濡れたショルダーバッグの中を漁る間じっと、彼は後ろで行儀良く待っていた。
「コレ、袋はあけちゃったやつだけど」
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