プロローグ 七月二十九日

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 ぐぅ、と再びなった腹の音と、しょんぼりとした顔が妙に可愛らしくて、少し笑ってしまった。 「あぁ。うん、すぐそこだから頑張って。俺は、弓削深弦」 「……みつる」 「君は?」  並んでみるとやっぱり20センチ以上身長差はありそう。新卒ぐらいに見えるけど、もしかしたらもっと年下だろうか。  歩き出した俺にひょこひょことついてくる歩き方も、少しヨサクっぽい気が、する。 「なにが?」 「なにって、名前」 「あぁ。――ガシン」 「ガシン? えっと、外国の人?」 「違う。日本の人。ザオウ、ガシン」  彼は不意に俺の手をとって、手のひらに丁寧に指先で漢字を書いた。自分の手がまるで子供のもののように感じるほど大きな手のひらに、どきりとする。  蔵王 我心  そう書かれたようだった。 「――なんだか、かっこいい名前だね」  俺の言葉に、彼はかすかに笑ったようだった。  雨はあっという間に止んでいた。
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