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「哀川くん、今は何の時間かね」
しん、と静まり返る教室に先程と同様穏やかな口調で教師は少年に尋ねる。
その問いにこの少年は首を傾げた。
「ん、と……魔法、歴学……?」
黒板の文から何とか推測できたようで少年は寝起きの声で答えた。
「そう、哀川くん君はこの間も寝ていたね……夜眠れないのかい?」
老眼鏡の奥の教師の目が少年を真っ直ぐ見つめる。
「いや、大丈夫です」
それに一気に覚醒したような声ではっきり告げた少年。
教師はしばらく無言で少年を見続けたがやがてこれ以上は意味がない、と理解したように目を逸らした。
これ以上目での圧力をかけられても授業中寝てしまうことは直せそうにないし、ましてやその居眠りの原因は誰かに話せるものではない。
話してしまったら今のままではいられなくなることを少年は分かっていた。
「授業中寝てしまうのであれば課題を与えましょう」
しかしこれは予想外だった。
黒板の前に戻った教師は柔らかい笑みを浮かべてそう言い放った。
少年は思わず顔をしかめる。
「授業終了時に渡すのでチャイムが鳴ったらこちらへ来なさい」
チャイムが鳴るまで後数分。
自分のせいで授業を中断して時間をつかってしまったためか少年の口から文句は出ない。
顔は不満を露わにしているが。
「それでは、授業はこれにて終了します。
次の授業までに今日習ったことの復習をしてくるように、予習も忘れずに」
そう締めくくって授業は終わった。
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