風がとおる。

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「あの…」  背後から声がし、振り返るとそこには見覚えのある顔があった。 「……青葉(あおば)?」  二週間前まで同じ中学校に通っていた女子、青葉 (ふう)が、冷めた目つきで透流を見下ろしていた。  パーカーにジーパンというラフな格好で、頭にはフードを被り、小ぶりなポシエットを斜めにかけている。右手には子供の顔くらいの大きさのボールを持っており…。 「って、あ、うちのボールだ」 「…転がってきた」  青葉はボールを投げて寄越した。先ほど寝転んでいたのは、どうやら青葉だったようだ。 「ありがとう、おねえちゃん」  透流より先に泉が礼を言った。 「…どういたしまして」  透流に対しては冷たい視線を投げかけていた青葉だが、小さな泉に対しては口元に笑みを浮かべ、ほんのりと笑って応えた。 「久しぶりだな」 「そうね、久しぶり」  青葉と話をするのは、小学校を卒業して以来だった。中学では一度もクラスが同じにならず、教室の配置の都合上、すれ違うことすらあまりなかったのだ。 「おねえちゃんは、おにいちゃんのともだち?」 「ううん、小学生の時に同じクラスだっただけだよ」  確かに友達かと言われたら微妙なところであるが、そんなにはっきり否定されると少し刺さるものがある。 「それってともだちじゃないの?」 「クラスメートだからって、みんながみんな友達になるわけじゃないのよ。君にもいずれわかる時が来ると思うわ」 「これからランドセル背負おうってやつにそんな夢のないこと言わないでくれよ」  透流は思わず口を挟んでしまった。 「それより、青葉はここで何してたんだ?」 「昼寝」 「携帯空にかざして昼寝か?」 「…見てたの?」 「見えたんだよ」  青葉は数秒、怪訝な顔で透流を見つめた後、パーカーのポケットから黒い携帯を取り出した。カチカチと操作をし、「ん」と携帯の画面をこちらに見せた。  携帯の小さな画面には、ただ青い空の中を雲が流れているだけの動画が流れた。時折、人の声や鳥の声、風の音が入り交じる。 「これ…何?」 「空だけど」 「それはわかる」 「おそらきれいだね!」  下から背伸びして携帯画面を覗き込んだ泉が無邪気に言った。 「そうでしょう?君はとてもいい感性をしてるね」  青葉が褒めると、泉はとても嬉しそうな顔をした。
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