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「で、これなんで撮ったんだ?」
「そんなに深い意味はないよ。空が綺麗だと思った。だから撮った。それだけのこと」
「でもなんで動画?空だったら写真でいいんじゃないか?」
「動画がいいのよ。写真でもいいけど、雲の動きや周りの音が入ることで、より『生きてる』って感じがするから」
ふーん、と正直よくわからなかったが相槌を打った。
動画は三十秒ほどの短いものだった。最後に透流と泉の声が入り、そこで動画は終わった。
「ああ、この時ボールが転がったのか。悪かったな」
「別に。痛いもんじゃないし、汚れとかも気にしないし」
青葉がレジャーシートも広げずに寝転がっていた姿が透流の脳裏を過ぎった。
「それなんだけど、さすがにシートは引いた方がいいと思うぞ。ここ犬の散歩コースにしてる人も多いし、糞がどこにあってもおかしくないぞ」
「ちゃんと確認してるし余計なお世話」
ぴしゃりと言うと、青葉は元いた場所に戻り、また仰向けに寝転んだ。今度は携帯もポケットにしまったままだ。春らしい穏やかな気候に、そよそよという擬音が相応しいささやかに吹く風が心地よく、寝転ぶ青葉が気持ちよさそうに見えた。
「泉、俺らもあれやるか」
きょとんとはてなマークを浮かべる泉の手を引いて、透流は青葉のそばまでやってきた。そして、眠る青葉の隣に犬の糞がないかを確認して寝転がった。自分の隣を指して「ほら泉も」と促すと、恐る恐る泉も芝生に寝転んだ。
「…ちくちくする」
「そうだな。俺らもフードがあればよかったな」
大の字になって空を仰ぐのは気持ちがよかった。小学校の頃、サッカー部の練習でへとへとになり、グラウンドで大の字になっていたことがあったなと思い出した。汗と砂が絡み合って、家に帰ると母親に笑われた。今日も悲惨だね、と。
「その子はあんたの家族?」
右隣にいる青葉の方から声がした。フードが邪魔で表情はよく見えなかった。
「…弟だよ」
「四月から一年生ってことは…今は六歳?」
「うん」
「年、離れてるね」
「…まあな」
左隣を見ると、泉の目が少しとろんとしていた。まだ疲れて眠るほど遊んではいないはずだが、春の暖かい日差しとそよ風が心地よく、眠気がやってきたのだろう。
「青葉は…しばらく話さないうちに変わったな」
「変わらない人間なんていないと思うけど」
「返しがいちいち冷めてんなぁ…」
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