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「情けねぇな。言われるまで気づけないなんて」
「あんたバカなの?」
容赦ない罵倒がぐさりと突き刺さり、透流は肩を落とした。が、落ち込む透流の頭にポンと何かが乗せられた。顔を上げると、青葉の手がこちらに伸びているのがわかった。先程の透流の無意識とは違い、意図的に透流の頭を撫でている。
「緊張してるのはあんただって一緒でしょう? あんたんちの状況になれば、誰だって自分のことで手一杯になるわ。大事なのは、気付けたこの後どうするかでしょ」
そう言うと、青葉の手は透流の頭から離れていった。
「あとごめん。放置してたら風で転がっていった」
と青葉が示した方向にボールがコロコロと進んでいくのが見えた。今いる場所から緩やかな傾斜になっていたため、余計勢いが増してしまっていた。
「お前そういうのは早く言え!」
猛ダッシュでボールを追いかけると、その側で遊んでいた小学生だろう女の子たちがボールを拾ってくれた。
元居た場所に戻ると、意地悪そうで、だけどなんだか楽しそうに笑う青葉がいた。
「一応忠告しておくけど、男の頭迂闊に撫でない方がいいぞ。男はスキンシップ慣れしてないから、そういうことされると軽率に惚れる」
悔し紛れに青葉の言葉を少し真似て言い返した。
「…肝に銘じておくよ」
よくよく考えたら墓穴を掘った気がするのだが、青葉が突っ込まなかったので、これ以上掘り下げるのはやめておくことにした。
「しかし、爆睡だなぁ泉。これならシート持ってくるんだった」
「ああ、それなら」
と言うと、青葉がパーカーを脱ぎ泉の寝ている横に広げ、寝ている泉を起こさないようにそっと抱え上げ、広げたパーカーの上にそっと下ろした。
「これでいいっしょ」
「今のお前の一連の動きがイケメン過ぎて男やめたくなったわ」
「じゃあ私と性別代わる?」
「そこはまだ抗わせて」
透流がムキになって言うと、青葉は可笑しそうに肩を震わせた。
「そういや高校はどこ行くんだ?」
「E高。近いから」
「あ、じゃあ高校も一緒だわ」
「へー」
「お世辞でもいいから『クラス一緒になるといいね』とか愛想のいいこと言ってくんない?」
「『クラス一緒になるといいね』」
「悲しいくらい棒読み!」
少しずつだが、昔に近いテンポで会話が出来ていることに透流は気づいた。もしそのきっかけが頭を撫でたことならば、スキンシップは偉大だ。
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