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「…なぁ、さっきの動画もっかい見てもいいか?」
「何? 気に入ったの?」
不思議そうな顔をしつつも、青葉は素直に見せてくれた。
雲が流れ、鳥が鳴き、風の音がして、透流と泉の声が入る。なんと言っているかまでは、大きさと音質の問題もあって聞き取れない。動画はそこで停止した。
「俺と泉、ちゃんと兄弟に見えるか?」
青葉は透流と泉を見比べ、少し考えてから「さぁ?」と答えた。透流がガクっとコントのように項垂れていると「でも」と言葉が続いた。
「名前は兄弟っぽいよね。お揃いで」
「そうか?」
「泉は水の湧き出るところのことだし、あんたの『透流』って名前も『透明』に『流れる』でしょ? 二人とも『綺麗な水』ってことでしょ? お揃いじゃない」
綺麗な名前だけどあんたの方はキラキラネーム感が否めないよね、とも突っ込まれたが、なんだか気分がよかったのでそこは受け流すことにした。
そのあとは、泉が起きるまでずっと二人で話をした。中学では家事をする為に部活に入らなかったこと。修学旅行で部屋のメンバーと徹夜して、自由行動の時バスで寝過ごして大変だった話。
女子の間の些細な諍いが面倒だとか、実は文化祭の時も一悶着あったとか。
予想以上に泉が眠っていた為、かなりの時間話し続けた。
話してみれば、お互い楽しいことばかりでは無かったけど、今こうしている時間はとても楽しかった。
青葉の「狭い世界」の話は、納得できる部分もあったけど、その「狭い世界」で青葉に会えたなら、狭いというのは悪いことばかりでもないのかもしれない。と思ったのだが、それを今言えば「きもい」で終わりそうなので話すのはやめておいた。
泉が起きた時には十二時を回っていた。寝ぼけ眼の泉に昼を食べに帰ろうと言い、ボール遊びはまた今度することにした。
青葉も家に帰るというので、徒歩の彼女に合わせて透流と泉は出口まで自転車を押して歩いた。
「おねえちゃんもこんどあそぼ?」
青葉がなんと答えるのか気になって、透流は耳をそばだてた。
「そうだね。お兄ちゃん次第かな」
「えっ?!」
思わず声が出た。
「あんたに私と泉くんの仲介してくれる気があるならいつでも遊べるよ」
そういって青葉は自分の携帯をポケットから出した。
透流は慌てて自分の携帯を取り出して、青葉と連絡先を交換した。自分の携帯に青葉の名前が登録される。妙にこそばゆい。
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