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風がとおる。
「おにいちゃん、そとであそばない?」
四月から小学校に上がる弟が、手に自分の顔と同じ大きさのボールを抱えて透流の部屋にやってきた。
高校入学を控えた春休み、透流は暇を持て余していた。同じ中学を卒業した友人たちと会う日もあったが、それも暇だったから故だ。
今日は朝食を済ませてから、だらだらとベッドに寝転び、何度も読んだマンガを読み返していた。
「泉はボール遊びが好きなのか?」
「うん!」
と元気に返事をしたが、すぐに「あんまり上手じゃないけど…」と肩を落とした。透流は体を起こし、弟の頭をポンポンと軽く叩いた。
「兄ちゃんもあんま上手じゃないんだ。一緒に練習するか」
泉は目を輝かせ、元気よく「うん!」とうなずいた。
小学生の頃、自分もよく遊んだ公園にやってきた。家からは自転車を走らせ十分。遊具の類は一切ない、芝生が広がり木々が連なるタイプの公園だ。
春休みということもあってか、友達同士で来る小学生や、幼稚園くらいの親子連れの姿がちらほら見える。
透流は人のあまりいない場所を選んだ。泉との距離を取り、ボール遊びを始める。
「よし、じゃあとりあえず投げてみろー!」
言われるがままに泉はボールをえい!と投げた。が、ボールは真っ直ぐ透流の元に届くこと無く、大きく右に逸れて行った。
(本当に下手くそだった…)
「ご、ごめんおにいちゃん…」
泉は泣き出しそうな顔をしていた。
「大丈夫だよ、気にすんな」
できる限り優しく聞こえるよう気をつけた。
転がったボールを取りに行くと、視界の隅に人の気配がした。その方向に目をやると、芝生の上にシートも広げず寝転がっている人がいた。左手を空に向かって突き上げ、その手の中には携帯電話がある。顔はフードがかかっていてよく見えない。
(何してるんだろう…)
奇妙な光景に目を取られていると、泉が駆け寄ってきた。
「にいちゃーん!」
ハッと振り返ろうとしたその時、足元に衝撃が走った。その衝撃で透流は前に倒れ込み、ボールは再び手から離れた。
芝生に足を取られたのか、バランスを崩した泉がそのまま透流につっこんだのだ。
「ごめん、にいちゃん。だいじょうぶ?」
「平気だよ。お前こそ怪我ないか?」
地面が柔らかかったのが幸いして、透流も泉もひとまず怪我はなかった。
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