144人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
結局のところ、このご時世にそこそこ景気がいいのは、シティやら上の方にいる連中やらの、ほんの一握りってところなんだろう。
フロントガラスの向こう、草地の先になだらかな丘が見え始める。
その上には古い城跡があった。
いつも――
その城跡の向こうへと沈んでいく夕日を、草原に立ち、俺は見上げていた。
*
養老院に預けたきりの親父が死んだという報せ。
それが、俺が故郷へと向かって車を走らせている理由だった。
月々、仕送りは欠かしたことがなかったし、そこそこのホームにも入れてやって、唯一の肉親としての義務は果たしていたつもりだったから、数年の間、一度も父親に会いに行かなかったことについては、正直なところ、俺に罪悪感はなかった。
別に、親父と不仲だったわけじゃない。
この街に帰りたくない理由が、特にあったわけでもなかった。
日々の暮らしに、仕事に、ただ追われていただけだ。
朝起きて、混んだ郊外鉄道と地下鉄を乗り継ぎ、ランチもそこそこに、バタバタと働いて、また家に帰る。
このところは、帰り道にパブに立ち寄り、エールの一杯を流し込む気力もないような日が多くなっていた。
そうして気づけば、四十の誕生日が過ぎてから、何年かが経つ。
ホームの親父の居室。
最初のコメントを投稿しよう!