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俺が着いた時にはもう、私物はすでに手早くもまとめられていて、親父自身すら、その部屋から別の場所に移されていた。
細長い台に安置された親父の遺体に引き合わされるとすぐ、俺は死亡証明書や埋葬許可書の申請フォーム、ホームとの契約終了確認書などの書類を、次々と手渡される。
それは、見事なまでに淡々とした手際の良さで、こういった事はホームでは、ただの日常業務なのだろうなと、ぼんやりそんな考えを巡らせながら、自動装置みたいにして、俺は次々と署名をした。
そして、それが最後の「サービス」でもあったのか、ホームの方で地元の新聞の死亡欄に葬儀の告知を掲載してくれていたのには、本当に助かった。
認知症を発症して数年。
もう、まるきり人との付き合いもなかった晩年だったとはいえ、誰も来ない葬式じゃ親父だって気の毒すぎる。
だが、だからといって俺も、親父の死を一体誰に報せればいいのか、もはやほとんど見当がついていなかったのだ。
俺と同じで、ガキの頃の友人たちも、多くはこの街を出て行ったが、もちろん、ここに残ったヤツらもいた。
セカンダリーの最終学年でガールフレンドを妊娠させて結婚する羽目になったジャックは、結局、妻に逃げられ、置き去りにされた子供二人を育てている。今は、国道沿いの家電量販店で働いているらしい。
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