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2 十六、七歳の時分の一時期。    のべつ幕なしに「つるんで」いたジャックやエドたちから、俺は時折、距離を置くようになっていた。  連中は、俺に「女ができた」と思い込んでいて、付き合いの悪くなった俺をニヤニヤ笑いで小突いていたけれど、別に、そんなことではなかった。  ただ、なんとなく。  ひとりになりたかった。それだけだった――  その頃、紙袋に包んだジンのボトルを手に、俺はよく、夕暮れ時のヒースの草地をひとり歩いた。  足元にぬかるむピートの感触と、鼻にしみるような冷たい風の切ない痛みを覚えている。  振り仰いで見上げれば、丘の上の城跡の向こうへ、夕日が沈んでいく。  そうやって世界が色を失っていく様子を、俺はただ、立ち尽くして見つめていた。  陽が落ち始めると、どこからともなく誰かが、草地にゴミを持ち込んで燃やし始める。  マットレスがへたりきって垢じみた安物のソファーや歪んだドアや、そんなようなものだ。  遠くに燃え立つ炎。  そして、ひとり佇んで、俺はジンで喉を焼く。  ある日の、そんなまだほの明るさを残した夜の始まりの頃。  不意に、草地に俺以外の人間が姿を現した。  たぶん、まだ若い男。     
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