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 *  その男が一体、どこの誰であったのか。  俺は、それを探ろうとはしなかった。特に、誰に訊ねてみることもしなかった。  ――あの丘の上の城跡を、ナショナルトラストが手に入れたがっているらしい。  けれど、持ち主の方は、手放すことを渋っているのだと。    まだ当時は元気だった母親が、何かの拍子でふと、俺にそんな話をした。   母は、エレメンタリースクールで代理教師として社会を教えていた。  教壇に立ち続け二十年以上となっていたのに、「代理教師(サブスティチュート)扱い」は、ついぞ変わることはなくて、そんな母は、子宮ガンで死んだ。  ちょうど、今の俺と同じ四十数歳の頃だった。  ほどなくして、俺はこの街を出た。  そして、それと同時に俺は、おそらく自分が「男」しか愛せない類の人間であることを知った。  俺の子供時代は、そこで終わりを告げた。   何度か恋をして。  それよりも、少し多くの男と身体を重ねて。  あとはただ、日々の糧のために働き続けてきた。  もはや、遊び回りたいような年齢でもなく、かといってステディな関係になる相手もいないままだ。  そもそも自分は、交際が長続きするタイプではないのだろうと、いつしかそんな風に諦めるようにもなったのかもしれない。     
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