第三章  専属心中

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 宮城、緑原。くそったれ。酔いのまわった座った目に幼稚園が映った。  宮城の弟たちが通う幼稚園だった。のんびりした北関東の神社がやっている幼稚園だ。  低い入り口は、誰かが開けっ放しにしたままだった。北関東の夜風が渦を巻いた。  緑原の台本は、田舎の駐在所の巡査とヤクザもの。宮城の台本は、ホストものだった。  練習は、緑原の台本からだった。駐在所の巡査役の緑原が、宮城のワイシャツを借りて着た。大きめのワイシャツを萌え袖に握り込み、宮城が高校時代の制帽、おおきめのをはすかいにかぶっていた。宮城は、ワンサイズ下の派手なハイビスカス模様の長袖のアロハを着ている。  素肌にピチパツのアロハ。宮城の引き締まった身体がくっきり浮き立つ。ムリにとじた開襟から鍛えられた胸の筋肉の谷間が見える。丈の短い裾からは、腹筋の6パックがのぞく。ちんこすれすれのローライズのジーンズからは、鼠径部がもろに見えて、緑原は目が離せなかった。下の毛のさきっちょが見えかけている。今時、ホストもヤクザもこんなもんだろ、と宮城のチョイスは見えそうで見えないギリギリのラインで際立っていた。  シーンは、高校時代の同級生がヤクザと派出所の警官になって再会する場面だ。 「じゅんちゃん、学校で1番頭良かっただろ! 貧乏だったから大学行けなかったからって、あんなヤツラにぺこぺこして、馬鹿にされて。ずっと真面目に生きてきたじゅんちゃんがなんでそんなに損しなきゃならねえ! おれが自首するって言ってんだ。調書書けよ! 自白するんだ。手柄にして、こんな田舎から出世しろよ!」 「おまえ、鉄砲玉になって、対立する組にカチこんで四人も殺したって、自首しても死刑だぞ。そんなの俺に書けるわけないだろ。なにグズグズしてるんだ、逃げろ、逃げるんだ!」  ヤクザ役の宮城が、両手を突き出す。  手錠をかけるよう促すが、緑原扮する巡査は出来ない。 「平成二十九年四月十八日、わたくしこと相良良純は、同日夜9時すぎ、帰宅する掛枝組組長を待ち伏せし、護衛役ともども、準備した凶器を使いさつがっ!」  緑原が、宮城扮するヤクザの胸ぐらをつかんで、口づけする。ヤクザがしゃべられなくなるまで唇をねじこむ。 「じゅんちゃん、じゅんちゃん! おれ、おれ! じゅんちゃんのことがずっと、ずっと」
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